2000年前後に勤めていたスイス・ヴォー州クリシエ村のレストラン「Hotel de Ville (オテル・ド・ヴィル)」で、よく手がけていた思い出のお菓子が、郷土菓子の「Tarte Vaudoise à la crème (タルト ヴォードワーズ ア ラ クレーム)」です。小麦粉と生クリーム、砂糖を使い、卵は一切加えない素朴なタルトで、ヴォー州では古くから農家の人々の間で親しまれてきました。
このタルトは、日曜の食卓や収穫祭など、家族や仲間が集まる特別な場に欠かせない存在でした。焼き上がったタルトを囲みながら、世代を超えて同じ味を分かち合うーそんな温かな風景の中で受け継がれてきた伝統菓子です。シンプルながらも心を和ませるやさしい味わいは、まさに土地の暮らしそのものを映し出しています。
私にとっても思い出深いこの一品を日本で伝えたいと、パティスリー「AuPetit Matin (オ・プティ・マタン)」の開店当初から作り続けています。店では「Tarte Nostalgie(タルト・ノスタルジー)」の名で販売しており、その名の通り、ひと口食べると不思議と懐かしさを覚えるお菓子です。実際にスイスで味わったことのない方でも、幼い頃の情景を呼び起こされるようなやさしさがあり、心をほぐし、癒やしてくれます。
シェフにとってはスイスでの修業時代を思い出させる大切なお菓子であり、お客様にとっても懐かしさを分かち合える特別なタルトです。

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69 いいね! ('25/09/12 14:00 時点)