『木頭柚子、種子島産きび糖をつかったバスクチーズケーキ』

歳を重ねても忘れられない、忘れたくない絵本ってありますか?

私にとって、新美南吉さんによる児童文学作品『手袋を買いに』は、そういう、心の奥に大切に留めておきたい本のひとつです。
教科書にも2011年まで載っていたそうなので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

はじめて雪の季節を迎えた子ぎつねが、お母さんに片方の手だけ人間の姿に変えてもらい、人間の街までひとりで手袋を買いに行くという、昔、テレビで見た「はじめてのおつかい」シリーズみたいな、
少しだけハラハラしながらも、ほっこり温かな気持ちになる物語です。

以下、冒頭部分の引用。
- - - - - 
寒い冬が北方から、狐の親子の棲んでいる森へもやって来ました。
 或朝洞穴から子供の狐が出ようとしましたが、
「あっ」と叫んで眼を抑えながら母さん狐のところへころげて来ました。
「母ちゃん、眼に何か刺さった、ぬいて頂戴早く早く」と言いました。1)
- - - - - 

この後すぐ、実際には子ぎつねの眼には何も刺さってはおらず、夜中にこんこんと降り積もった雪に照り付けた太陽光の反射があまりに眩しすぎたせいで、子ぎつねは眼に何か刺さったと勘違いしてしまっただけということがわかり、お母さんきつねはほっと胸を撫でおろします。

北国育ちである私も、この強烈な、まともに目を開けられない程の反射光を幾冬も浴びて育ちました。
まるで光の粒が、鋭利な雪の結晶の形そのままに反射して、一瞬で瞳の奥の奥まで突き刺さってしまったような。
あまりの眩しさにびっくりした後には、そのあたたかさや美しさも相まってか、不思議と頬が緩んでしまう光。
物語の子ぎつねのように幼ない頃から、冬の晴れた日には薄目を開けてやり過ごしていたのをよく覚えています。
大人になってから調べてわかったのですが、瞳の色素が茶色がかっている私は、少々眩しさを強く感じやすいタイプのようです。

なぜこんな思い出話をしはじめたのかというと、木頭柚子の香りをはじめて嗅いだ時、真っ先にイメージされたのが、この北国で浴びた光だったから。
わたしの奥深くまで鮮烈に、光速の如く到達して、それで終わりかと思ったら、そこでさらに華やかに開くものだから、「ああ、これは深く刻まれたな、もう忘れることはできないな」と理解させられてしまった、眩い光みたいな香り。

そんなシャープな木頭柚子の香りには、コクのあってまあるい風味の、種子島産のきび砂糖を使おうと思いまして。
どこかきつねの毛並みにも似た、やや赤みがかった黄褐色のきび砂糖をですね。
濡れて赤くなった子ぎつねの手を、ぬくい母さんきつねの手でやんわり包んでやるという、物語の中のワンシーンのようなイメージで、北国のミルクで作られたクリームチーズに加えていきました。

きび砂糖をきつねの毛並みに例えていてふと思いついたのですが、うちのバスクチーズケーキの表面の焼き色。
きつねの、あのさんかくの耳の先や足先の濃くなっている部分の毛色に似てやいないでしょうか……
そう思ってあらためて見てみると、トラが木の周りをぐるぐるぐるぐると回ってバターになったあのお話みたいに、まるできつねがケーキになっちゃったみたいに見えてきて、なんだか楽しい気持ちになってきます。
バスクチーズケーキになったきつね。
どなたか、ものづくりのアイデアにでもいかがでしょう?

ああ、またつい話が脱線してきたのでこの辺で。
メニューの紹介になったのかどうかわかりませんが、読んでくださった方、ありがとうございます。
なんだかおおげさな表現になってしまったかもしれませんが、シンプルに食べやすいケーキです。
ぜひ、食べにいらしてください。

そうそう、ついお知らせするのを忘れていました!
先週の記事で紹介した、好評販売中の国産指なし手袋が、また届くことになりました。
なので、もしよろしければ、人間の町にある福綴まで『手袋を買いに』いらしてください。
贈り物にもきっと喜ばれると思いますよ。
きつねのお客様も、葉っぱのお金じゃなければ大歓迎。

引用
1)新美南吉.『手袋を買いに』.青空文庫,https://www.aozora.gr.jp/cards/000121/files/637_13341.html(アクセス日:2025/11/29)

#福綴 #バスクチーズケーキ #手袋を買いに #木頭柚子 #きつね

続きは Instagram で

0 いいね! ('25/12/09 08:01 時点)